1-01.新しい古びた天使指導Renew!
「イース、気持ちいい? ね、ここ好きでしょ?」
ぼやけた視界の中で、赤と見紛うピンクの瞳が熱心にこちらの反応を探りながら、甘い蜜のような声で囁く。
「うう、んっ、んんっ」
意識が朦朧としてその言葉に答えられず、ふわふわした快感が全身を包み、頬を伝う涙をどこか遠くの出来事のように感じながら途切れ途切れに声を上げる。
「あう、ううっ、もう、俺……!」
己の一番深い部分を抉られ続け、溶けてしまったかのように腰の感覚がない。
「あっ、奥、だめ……! やだぁ、もう……!」
うわ言のようにいやいや言いながら身を捩ると、ますます興奮したようにのしかかられ、腰を抑えつけながら奥深くまでがつがつと穿たれる。
「あっ、あっ、やあ、待って、あああっ……!」
自分の中の最も大事な部分を暴かれ、否応がなしに植えつけられる快楽にもう声を抑えるのも忘れて、目の前の存在に縋りつくことしかできない。
「イース、かわいい、かわいいよ。はあ、もっと俺を欲して……!」
一瞬だけ目の前の相手の声音が低くなったような気がしたが、どくりと奥に放たれる感覚にそんな些細な変化はふっ飛んで、受け止めきれない大きすぎる快感にあっさり意識を飛ばした。
「ねえ、もうそろそろいいだろ……?」
気を失う直前に何か聞かれた気がするけれど、それに答えることはできなかった。
ナイロフイース、天使就任三年目、この世界ではあまり見かけない黒髪に碧い瞳の男天使は、天使学校を首席で卒業した同級生(男)と気づいたらただならぬ関係になっていました――長時間貪られ、気絶して目が覚めたら、ふかふかの羽根が敷き詰められた寝床でその同級生、裸のラランプリシアの腕の中という状況に白目になりそうになる。どうしてこうなった。
絶対におかしい。学校でも仕事場でもどこか自分が浮いている自覚はあるけれど、それは天使には珍しい配色の外見と消極的な態度が原因で、仕方ないことだとわかっていた。天使の仕事をすると著しく具合が悪くなるのだから、天使に関わるものから距離を置きたくなるのは自然なことだ。自身も天使で、この天使界には天使か天使見習いしかいないけれど。
ナイロフイースは再度どうしてこうなったと自問した。ラランプリシアは首席の優等生で、学校卒業後はその優秀さからとんとん拍子で出世して、今や闇の神殿の守護天使だ。
明るい茶色の髪に魅惑的なピンクの瞳の気品ある美しい顔立ちのラランプリシア。学校でも彼は天使たちに熱い視線を送られていたが、柔らかな物腰に反して案外周囲に他者を寄せつけないところがあって、高嶺の花扱いされていた。
昔から関わりがあったことは確かだが、天使学の成績が地を這うような酷さで、他の教科でそこそこ優秀な成績を収めてもトータルでは真ん中より下という中途半端な自分と、天使界の有史以来の天才児で奇跡の再来とまで言われているラランプリシアが、どうしてこんな関係になったのか全く理解できない。
天使の仕事から逃げまくっている問題児を責任ある立場のラランプリシアが指導するというのならまだわかる。階級に差はあるが、一応同期で天使学校でもずっと同じクラスだったから多少交流はある。ついでに言うなら誕生日で決まる出席番号の関係で席もずっと隣だった。
『ねえ、イースってどうしてそんなに天使学が苦手なの? 天使向いてないんじゃない?』
愛称で呼ぶ割に不躾な物言いをされることも多かった気がするが、それなりにクラスメートとして親交を深めてきた側面はある。あるけれど、ナイロフイースはラランプリシアに特別心を開いていたわけではなかったし、向こうも天使学に関しては学校一の落ちこぼれだった同級生が物珍しくてちょっかいを出していただけだろう。
『ねえ、いい加減天使を目指すのやめて、他の道も考えてみたら? ほら、人間の世界じゃ寿退社って言葉もあるし?』
何を言っているのかちょっとよくわからなかった。確かに天使が主に力を発揮する人間界ではそういう文化もあるが、天使界では労働という概念はなく、天使の仕事は単に自分の役割を果たすだけのものだ。仕事をすることでエネルギーを世界から貰ってそれで自身を成長させるが、別に仕事しなくても死ぬわけではない。成長したい天使はがんばるという話だ。ナイロフイースには真似できない立派な志で周囲は動いている。
なぜ真似できないか。ナイロフイースは向上心のない落ちこぼれ天使だから――というわけではなく、仕事をすると著しく衰弱するという所謂ニート体質だからだ。好きでそんな体質なわけではないが、天使の仕事をするくらいなら人間界に亡命した方がまだましだと思っている。ちなみに天使の人間界送りは本当に悲惨で、小さな子供をしつける際に人間界送りになるぞ! と脅すのは常套句だ。天使という神聖な存在の時空間の割に、この世界には数多くの陰惨なおとぎ話が残されている。
天使がこの世界を立て直して、こことは別時空ではあるが繋がっている全ての世界が幸せになりましたという優良図書に指定されるような温かい物語よりも、恐ろしい童話の方がナイロフイースは好きだ。多分これは人間界で人間がホラー映画を見て憂さ晴らしをする心理と似通っている。
こういった性質から問題児と忌避されてもおかしくないのに、天使たちはナイロフイースを表立って爪弾きにすることもなく、闇の神殿の周りを箒で履くという地味で害のない仕事を与えてくれた。天使界には埃一つ落ちていないので、全く意味のない行為ではあるものの、一心不乱に箒を振り回している間だけは全てから解放されたような気分になれる。
既に掃除すら放棄して、ナイロフイースは天使の儀式の際に使う箒でいかに楽しく遊ぶかということに心血を注いでいた。紛う方なき不良天使である。
闇の神殿の守護天使に任命されたラランプリシアと学校卒業以来途絶えていた接点が生まれたけれど、豪奢で厳かな神殿の中と外では全く重要度も違うし、任された仕事内容も雲泥の差だ。本来ラランプリシアがナイロフイースを構う必要もメリットもない。
意外にも天使界では不出来な部下や同僚の面倒を見なくてはいけないというような文化も規則もなく、人間にはそれを推奨するくせに自分たちは実践しないというちぐはぐなことをしている。ナイロフイースとしては放っておいてもらえて助かっているが、曲がりなりにも与えられた仕事のために闇の神殿の周りをうろついていると、ラランプリシアに捕まって彼の家にまで連れて行かれてしまうのだ。
『人間には助け合いなさいって啓示を与えるくせに、天使たちってみんな冷たいよねー。イースが単独でこの無駄に大きな神殿の周りを箒で掃除しなくちゃいけないとかほんと、どんだけ鬼畜な仕事与えてんだって感じ。まあ、そのおかげでこうして仕事でも一緒にいられるわけだけど?』
ラランプリシアの家は巨大な水晶でできていて、どこもかしこも宝石が散りばめられた豪華で頑丈な造りになっている。居心地がいいのでナイロフイースもついつい長居しがちだが、そこで交わされる話の内容自体は意味不明なことが多い。神殿の周りで箒を振り回して遊ぶことのどこが鬼畜な仕事なのだろう。
『闇の神殿とか言って俺を祀ってるつもりだかなんだか知らないけど、ほんと天使って馬鹿だよねー』
ラランプリシアは天使が嫌いなのか、このように天使を小馬鹿にした物言いが多い。ナイロフイースが天使らしくないから安心して愚痴を吐けるのかもしれない。ナイロフイースの家は森の奥にある大きな洞窟で、干して乾燥させた藁を敷き詰めてそれなりに快適空間を作っているが、前にラランプリシアが押しかけてきた時に絶句していたので、相当貧相な住処なのだろう。
それでなぜかその場で押し倒されて襲われたので、ラランプリシアは頭がおかしいのかもしれない。天才と何とかは紙一重ってやつだ。
天使の制服を乱暴に剥ぎ取られ、全身に吸いつかれ、噛みつかれ、奥底の熱を呼び起こされた。ナイロフイースが混乱しているうちにどんどん身体を暴かれ、仕事帰りに必ずお持ち帰りされる関係になってしまったのだから、何が何だかわからない。全く抵抗する隙もなかったし、そんな気も起きないくらい立て続けに攻められて、気づいたらこういう間柄になっていた。
やはり意味不明だ。人間の想像する貞淑な天使と違って、天使界では貞操観念などあってないようなものだ。そもそも生殖と欲望の発散のためにする人間と違って、天使たちのセックスは健康体操に近い。お互いのエネルギーを交換し合って気持ち良くなりながらお互いを高め合うという、非リアな己には縁のないアクティブリア充――ナイロフイースは仕事をしないもののよく人間界の観察をするため、その文化に中途半端に馴染みがあった――の娯楽と成長が混ざったような行為だったはずだ。
天使は背中に出し入れ自由な翼があって、その身体を構成するエネルギーは別物だが、外見は人と大差ない。しかし天使は子供を男女の生殖で作らないので、男女の区別も各自のエネルギー性質がプラスなら男、マイナスなら女という区分けだ。
天使は天使界の母たる大きなエネルギーの塊――アマンザンという名称で崇め奉られているものから産み落とされる。いつ見ても不思議な光景だ。身体をすっぽり覆える翼を持った掌サイズの赤子が、お花畑の大きなお花のベッドの上にいつのまにか寝ている。女天使が主にその赤子を回収して育てる役目を担っているが、ローテーションで担当が変わるので、自分の乳母と呼べるような存在はいない。アマンザンだけが皆の母親だ。
天使は年々生まれなくなっていて、焦った赤子回収係の天使が誤ってお花を根っこごと抜いてしまったら、そこにナイロフイースが埋まっていたというのだ。野菜か。物心ついた頃に伝聞で知った自身の出生に微妙な気持ちになったのをよく覚えている。小さな頃からナイロフイースは人間界を観察する技術だけはあって、当たり前のように向こうの世界の絵本などを読んでいた。
「ん、イース、起きたの? 今、朝ご飯を作るからね」
ラランプリシアが起き抜けに甘ったるい笑みでちゅっとリップ音を立てながらナイロフイースにキスして起き上がった。
「お、おお……」
ナイロフイースは曖昧に頷いたが、恋仲でも何でもない自分たちがするには不自然なやりとりに頭が痛くなった。特定の相手を見つけるまではフリーセックスに興ずる天使たちだが、もちろん夫婦という概念はあるし、彼氏彼女というその前段階もある。しかし未熟な童貞処女で夫婦になることなどあり得ないというのが天使界の常識だし、恋仲になる相手を決めるには同級生と一通り身体を繋げてからにしましょうと授業でも習う。現代人からしたらとんでもないことかもしれない。ナイロフイースも人間界の漫画や小説で「お前、処女じゃなのか……?」と衝撃を受ける男や「私、初めてはあなたに捧げるって決めてたの」と頬を染める性行為に不慣れな女、果ては「お前の処女を奪った相手を殺す!! お前の最初で最後の男は俺だぁぁぁ!!」と発狂する男を描いた作品に触れてカルチャーショックを受けたものだ。しかし人間や動物の性質を考えれば、それもありえる事態だろう。狙っていたメスが他のオスに種づけされていたら本当に自分の子供を身ごもったかわからないし、メスの方も好みの強いオスだけを受け入れたいと思うのだろう。
毎回意識が飛ぶほど気持ち良くなっているので、ラランプリシアは場数を踏んでいるのだと予測できるが、正真正銘ナイロフイースは童貞で処女だった。他の天使から距離を取っていたのでそれも当然だ。現在童貞非処女。これが人間の男だったらちょっとした悲劇か笑い話になっているに違いない。
人間界にもあるように天使界にも同性愛はある。むしろ天使界では初めてのセックスの相手に同性を推奨しているくらいだ。男同士なら突っ込む棒も穴もあるし、女同士でもエネルギー的に繋がって相手の身体を堪能できるので、極自然にそれらは行われている。
ここでも人間と天使の違いがあったな、とナイロフイースは気づいた。天使には男女共に穴が一つしかない。セックスの際にエネルギーを注がれるための穴なので、総排泄腔ではなく、男同士だからといって事前洗浄が必要なわけではない。そう、天使はうんちもおしっこもしない……! 人間の夢が壊れないで済んだなとナイロフイースは思ったが、前に悪戯で天使に憧れる人間の夢に侵入して実際の生態を語ったら『そんなの僕の思い描く天使じゃないぃぃぃ!!』と泣かれたので、とっくに壊れているのかもしれない。
「今日はこの前収穫して干しておいたサツマイモを使って、ちょっと変わったシチューを作ってみたよ」
ナイロフイースがぼんやりしている間にラランプリシアはてきぱき朝食を用意していた。基本的に人間界の自然に存在するものは天使界にもある。そもそも天使界の方が歴史は古く、先輩に当たるのだ。もちろん人間は天使が創ったわけではなく、アマンザンが自分の子供の中で特別秀でた息子と一夜の過ちを犯してできたのだと言い伝えられている。真実かどうかは定かでないが、そういう文献が残っているらしいので、きっとそうなのだろうという程度の認識だ。
天使たちは基本的に忙しい。もし余裕があれば世界とは一体何なのかというような考察を深められたかもしれないが、天使界を侵食する闇と戦っているのでそんな悠長なことを考えている暇はない。
暇はないのだが、ナイロフイースは戦力外だし、ラランプリシアはその有能さで定時には仕事を上がって存分に自由時間を確保している。一日中仕事しかしていない者もいると聞くので、こんなふうに自由を謳歌する天使は珍しい部類だろう。今となっては仕事の時間以外ほとんどラランプリシアと一緒に過ごしているから、大抵ベッドに引っ張り込まれる羽目になり、ナイロフイースに休んでいる感覚はあまりない。
「はあ……こうやってラランの相手をするのが俺の仕事だったら、俺って超優秀だろ」
適当に散らばっていた衣服を身に纏いながらぼやくと、ラランプリシアはぴたりと動きを止めた。
「へえ……?」
あ、やばい、怒らせたかも……。ナイロフイースがびくりとすると、ラランプリシアはにっこり笑って、皿によそったシチューを手にベッドに乗り上げてきた。
「かわいいこと言うじゃない」
あ、成長欲の方を刺激しましたかと、思わず腰が引ける。怒らせたわけではないようだが、ラランプリシアは日に何度も求めてくる。これでこいつがセックスで成長する天使じゃなかったら、ただの性欲旺盛な絶倫男だよなぁと口にしたら今度こそ怒られそうなことを考えながら、ナイロフイースはシチューを口に含んでキスしてくるラランプリシアを受け入れた。ラランプリシアは口移しでご飯を食べさせるのを好むのだ。
「あっ、うあ、ああっ、んんんっ、ひうっ……!」
休日は服を着ている時間がほとんどないくらい裸で抱き合っている。仕事中でも休憩時間に森に連れ込まれて抱かれることがあるので、ラランプリシアはその職務内容からも常に成長し続けないと厳しいのかもしれない。
なぜその相手に明らかに天使として格下のナイロフイースを選ぶのか疑問に思うものの、毎回そういう質問をする余裕もなくなるくらい抱き潰されるので、未だに疑問は疑問のままだ。ラランプリシアは基本的に対面でするのを好むが、今回のように後ろからする時はすごくねちっこい。
「あっ、そこ、ううっ……! ひゃああん!!」
どくどくっと大量に注がれ、その度に過ぎた快感に脳髄を揺さぶられる。ラランプリシアはどこまでもこちらの快感を追求してくるから、されるがままで終わった後は腰に力が入らない。奥の一番深い部分を突かれると腰が抜けてしまうし、前立腺を掠めたり抉られたりするとひんひん泣いてしまい、絶妙な刺激で前をいじられるともう何も考えられなくなる。相性にも寄るが、天使の精液を注がれると必ず達してしまうので、何重にも快楽を与え続けられて、最後の方はキャパシティオーバーでほとんど何も感じられない状態になっている。
天使にも前立腺はあるんだぜ……? 現実逃避したくなるのか、ラランプリシアとのセックス後にいつもナイロフイースは遠い目で人間界を眺めながら誰にともなく語りかけてしまう。
――前立腺の真実を教えてやろうか……?
そしてこれは何度目になるかも知れない幻聴だ。ナイロフイースはため息をつきそうになりながらベッドに沈んだ。ここのところ怪しい声が頻繁に聞こえるが、セックスし過ぎて頭がイカれてしまったのだろうか。大抵ラランプリシアとした後にぼんやり独り言を脳内で垂れ流していると、セクハラ紛いのことを言われる。
――前立腺がある本当の意味を知りたいか……?
ナイロフイースが何も反応しないと再度語りかけられる。お尻の中が今もじんじんしているのに、前立腺の話など聞きたくないが、この声は無視するとますますえげつないことを言い始めるので、ナイロフイースは丸まりながら小さく頷いた。
――天使のエネルギー性質がプラスなら男、マイナスなら女だと言うのは知っているね? エネルギーを滅ぼす際に大事なことだが、性質の異なる二つのエネルギー、プラスとマイナスをぶつけた際にどちらかが勝つと、負けた方は買った方に一部吸収されて滅ぶのだよ。その一部吸収というのが厄介で、それをされるとものすごく面倒な方法じゃないと殲滅できない。もちろん不可能ではないし、私に不可能なんてないが、手間がかかって腹が立つため、どうしても拷問してしまう……そうすると世界が乱れるから効率が悪いのだ。分別した方がゴミは片づけやすい。だから前立腺に魔法をかけて、男は男同士でセックスした方がトータルで見ると気持ち良いようになっているのだ!
高笑いが聞こえてきそうな口調だが、一体どんなセクハラだ。ナイロフイースは聞かなかったふりをしたかったが、幻聴はこちらの様子などお構いなしにべらべら喋り続けている。
――ああ、ナイロフイース、早く目覚めておくれ……私のスウィートハニー。さあ、もっと私を注がせておくれ……。
本当にセクハラはやめてほしい。ラランプリシアとこういう関係になった謎も未解明なままなのに、それに加えておかしな声が聞こえるなんてとんでもない異常事態だ――と思ってはっとした。これはもしや闇の神殿に祀られている邪神ユアエタニージュ――正確な発音ができないから無理に音に当てはめた名前だろう――が千年の眠りから目覚めてしまったのではないか?
ラランプリシアは闇の神殿の守護者だ。彼はずっと何かに追い立てられるように成長を求め、ナイロフイースとセックスばかりしている。それだけのっぴきならない状況なのではないだろうか。
「おい、ララン、お前もしかして……」
「ん? なあに? もう一回していいの?」
ベッドで背を向けて横たわるナイロフイースを抱きしめ、首筋にキスを落としてくるラランプリシアの下半身は既に兆している。
「それどころじゃないだろ! なんで今までずっと彼氏でもない俺を抱くのか疑問に思ってたけど、俺が黒髪の天使で闇属性に抵抗力があるからだな? そんなに闇の神殿はやばいのか? んんんっ――!」
ナイロフイースはくるりと勢いよく体勢を変えてラランプリシアと向き合ったが、その衝撃で全身に甘い痺れが走り、軽く達してしまった。
「あっ、あっ、中おかしい……!」
ずっとぞわぞわイキ続けるような感覚にとてもではないが、話どころではなくなってしまう。
「やっ、イクの止まらなっ……!」
ナイロフイースはラランプリシアのせいで後ろだけで達することができる身体になってしまったが――むしろ前だけ触っても満足できない――こんなふうに挿入すらされてない状態で射精もしていないのに、快感の渦に囚われたことなど今までなかった。
まさか、これが邪神の力……!? 思い至った可能性に正解だと言わんばかりに全身が火照り始める。男の平らな胸の頂きがじんじん痺れ始めて、痒くて自分で摘まんでしまう。
「あっ、あっ、おかしくなっちゃうよぉ……!」
子供みたいな舌ったらずでおぼつかない口調で腰をゆらゆら動かしてしまう。乱れるナイロフイースをラランプリシアは血走った目で見て、息を荒げながら上に乗ってきた。
「だ、ダメだ、これ多分邪神の……!」
封印が解けかかっているのなら、何らかの力で守護者たるラランプリシアを害そうとしているのかもしれない。しかしナイロフイースの制止を無視して、ラランプリシアは前戯を始めてしまった。
「あっ、ああっ、気持ちいいよぉ……!」
頭の片隅では警告を発しているのに、ラランプリシアの手荒い愛撫にこれまでにないほど乱れてしまう。ぷっくり腫れた胸の粒を噛んで舐めたり吸ったり摘ままれたりして、その部分だけかわいがられるのにもどかしさが募っていく。
「もう、焦らさないで来て……!」
この時初めてナイロフイースは自らラランプリシアを誘って求めた。
「やっと許可をくれたね」
得体の知れない笑みを浮かべて、ラランプリシアの瞳が赤く染まった気がした。