天龍双

仔犬君は気付かない

 背が高くて、細身だが筋肉質で、頭も良くてかっこいい皆の人気者、水無月みなづきかおる先輩。そんな憧れの先輩から相談を持ちかけられたら、張り切るのは当然だ。
 黒目勝ちでつぶらな瞳を輝かせ、七瀬ななせ勇樹ゆうきは勢い良く身を乗り出した。
「水無月先輩! 俺にできることがあったら、何でも言ってください!」
「ははっ、仔犬君は元気だね。そう言ってもらえて嬉しいよ」
 水無月先輩の実家が経営するカフェ『La vieラヴィー』の奥まった席で、勇樹はそわそわしていた。本日火曜は定休日で、貸し切りとなった店内を、洒落たジャズピアノが流れている。
 味のある木のテーブルには花が飾られ、水無月先輩のれてくれたココアが良い香りだ。
「すてきなお店ですね……」
 水無月先輩が実家のカフェでウェイターとして働いているのは知っていたが、勇樹は顔を出したことがなかった。
 水無月先輩目当ての女子や、おばさまたちで常に混んでいると聞いていたので、一人で訪れる勇気はなかったし、女嫌いの親友七瀬彼方がつき合ってくれるはずもない。
「ありがとう。母さんが聞いたら喜ぶよ」
「ところで相談って何ですか?」
「いくつかあるんだけど、まずは委員会のことから」
「はい!」
 勉強ができて、人当たりも良くて、見目みめうるわしい水無月先輩に頼られるのが勇樹はほこらしかった。
 同じ放送委員会で一年以上お世話になっているのだから、何か恩返しがしたい。意気込む勇樹に、水無月先輩は微笑ほほえんだ。
「仔犬君はかわいいね」
 水無月先輩に仔犬君と呼ばれるのは、どこかくすぐったい。からかいをふくんだあだ名であるはずなのに、彼が口にすると途端とたんに甘いひびきをびる。かわいいと言われるのは、かっこいいを目指す勇樹としては、少少しょうしょう複雑だが。
「やっぱり俺は仔犬君に次期放送委員長になってほしいな」
「えっ!? 俺、全然成績良くありませんよ……?」
 委員長は先生の打診だしんで、成績優秀者がなることが多い。
人望じんぼうも大事だよ。仔犬君だったら放送委員会を盛り上げてくれると思うんだ」
「そうですか? 俺うるさいだけのような気もするんですけど……」
「そんなことないよ。俺は仔犬君のにぎやかなところもかわいくて、楽しいと思うよ」
 水無月先輩は勇樹をかわいいと表現するのが好きらしく、め言葉にはこう確率かくりつで入っている。
「かわいいって言われるのは嫌?」
 不服ふふくそうな顔をしていたのか、水無月先輩がくすりと笑った。
「褒めてもらえるのは嬉しいですけど、かわいいよりかっこいいって言われたいです」
「ああ、ごめんね? 俺のかわいいにはでるも含まれてるから。でたいとかめたいとかいろいろね……」
 まるっきり仔犬あつかいである。
「まじめな話、俺は仔犬君が放送委員長に相応ふさわしいと思う」
 水無月先輩は真剣だ。一応今のクラス代表は勇樹だが、彼方が押しつけてきただけなので、先生の信頼があついというわけでもない。
「先生と委員長は彼方君をしてるけど、俺は仔犬君を推薦すいせんしたい」
「ありがとうございます。でも彼方のやつはやりたがらないと思いますよ?」
 あの面倒臭がりはまず立候補しないだろう。
「そこら辺は先生も見越してるのか、仔犬君を副委員長にして彼方君を引っ張ってこようと思ってるみたいだよ」
「えっ! それって絶対俺が大変なことになるじゃないですか!」
 彼方の人当たりの悪さと言ったら……勇樹が間に立たないと、とんでもなく険悪な空間を作り出してしまう。
「俺もそれは言ったんだけど、委員長も先生もかたくなでね。やる気さえあれば、彼方君ほど相応しい人もいないって……肝心のやる気がね……」
「あー、でも彼方は俺の困る姿を楽しむふしがあるから、多分そういう動機で引き受けますよ……」
 そのしわ寄せは全て勇樹にくるのだ。
「どうもそういうところが先生や委員長には理解できないみたいで……委員長なんて彼方君が立候補することで、自己変革へんかくうなが一皮ひとかわけるだろうという感覚らしくて……」
 不真面目の権化ごんげのような彼方に、そういう期待はしない方がよい。
「委員長はまじめ過ぎるからね……自分の物差しで他人をはかりがちというか……」
 副委員長として委員長を支えてきた水無月先輩なので、いろいろと思うことがあるのだろう。
「何で水無月先輩は、放送委員長に立候補しなかったんですか?」
 オファーがこなかったとは思えない。
「もともとそこまでこだわってなかったのもあるけど、今の委員長の根回しがあってね……彼、自らの成長と革命のために、俺に対抗たいこうとして出馬しゅつばせずに副委員長になって欲しいって懇願こんがんしてきてさ……」
「何かすごいですね……」
 勇樹はぽかんとしてしまった。現放送委員長は真面目まじめだが、驚くほどの情熱で珍妙ちんみょうな提案をする謎の眼鏡委員長という印象が強い。
「まあ、委員長の変な感じは、この一年で身にみただろうけど……」
「そうですね……水無月先輩が止めないと、とんでもない方向に行ったまま帰ってこられなかったでしょうね……」
 苦笑する水無月先輩に、勇樹はしみじみと頷いた。
「仔犬君の功績こうせきも大きいよ。面白がって委員長をあおる彼方君のストッパーになってくれたんだから」
「少しでも水無月先輩のお役に立てたならよかったです。彼方はひねくれ者だから、もっともらしいことを言って委員長を支持するふりをしながら、実のところ振り回される俺や先輩を面白がってるだけなんですよね」
「うーん、彼方君のターゲットは仔犬君だけだと思うよ? 俺には嫌がらせ入ってるんじゃないかな」
「えっ! そんなことは……! あー、でも確かに彼方のやつ、水無月先輩をライバル視してるところがありますよね。今日だって俺が放課後遊ぶのを断ったら、根掘ねほ葉掘はほり聞いてきて、先輩の名前を出したら、明らかに不機嫌になりましたもん。まだあの時のことを根に持ってるのかな……」
「あの時のこと?」
 不思議そうな顔をする水無月先輩に、勇樹は少し躊躇ためらいながら口を開いた。
「そんな大したことじゃないんですけど……俺と彼方が購買のプレミアム黒ごまプリンの最後の一個をめぐって喧嘩になった時の話です」
 途端に水無月先輩が微温ぬるい笑顔になった。
「ああ、購買のプリンおいしいよね」
「はい! しかも期間限定で、佐賀や沖縄の黒蜜豆乳プリンや、黒ごまプリン、抹茶プリンとか、いろいろ仕入れてくれるから見逃せないですよね! お豆腐屋さんとコラボしたり、有名な和菓子・洋菓子屋さんの人気商品を置いてくれたり……うちの購買はレベル高いです」
「確かにそういうところこだわってるよね。でも女子が殺到さっとうするから、男子にまであんまり行き届かないというか……俺も貰ったことはあるけど、自分で並んでまで買おうとは思わなくて」
「女子から差し入れされるなんて、流石水無月先輩……! 俺の時も彼方の女子人気でありつけたようなものですけどね。最後の一個だったから、俺は半分こしようって言ったんですけど、彼方は断固拒否で。あいつ俺の弁当から卵焼きや唐揚からあげはかすめ取っていくくせに、その逆は許さないんです」
「……彼方君らしいね」
 一瞬水無月先輩の雰囲気が重くまとわりつくようなものになったのは、気のせいだろうか。
「いくら彼方のおかげとはいえ、いつも弁当のおかずを取られてるんだから、一口くらいいいじゃないですか。お金も半分出すって言ったのに……だからこういう時水無月先輩だったら絶対こころよく分けてくれるのにって怒ったら、彼方が逆切れして先輩と張り合うようになったんです」
 勇樹のお弁当紛争ふんそうは、彼方にも少しあげられるように、母がおかずを多めに作ってくれることで一応収束した。
「ははっ、そうなんだ。確かに俺だったら仔犬君にゆずるかな。おいしく食べてくれる子にあげた方がいいし、仔犬君の喜ぶ顔が見たいからね。ああ、でも一口くらいは欲しいかな?」
「やっぱり水無月先輩って優しいです……」
 感動する勇樹に、水無月先輩は悪戯いたずらっぽく笑った。
「そんな甘党の仔犬君に、こだわり卵の蜂蜜はちみつプリンを用意したんだ。どうぞ召し上がれ」
 水無月先輩が出してくれたプリンは、輝いて見えた。洒落じゃれた小皿の脇に生クリームとブルーベリーが添えられているが、至ってシンプルな本格派だ。
「わあ、いいんですか!? いただきます!」
 勇樹が仔犬と呼ばれるのは、何も落ち着きがなく騒がしい割に、体力がないからだけではない。勇樹はどうやら鼻が良いらしく、おいしいものを本能的にぎ分ける能力がある――と彼方に散散さんざんからかわれてきた。
 実際勇樹の食事に関する選択がんは確かだ。そしてこのプリンを前に、勇樹は確信している。これは間違いなくおいしいと。
「このさっぱりした濃厚のうこうさ……生臭くない卵の新鮮な食感……ものすごくおいしいです! 素材の良さがわかります!」
 感激する勇樹に、水無月先輩は笑みを深めた。
「流石仔犬君。良い舌してるね」
 水無月先輩が勇樹の口元をめるように見たので、思わず背筋を伸ばした。まるでこれから専門家の批評ひひょうを受けるかのような緊張感。しかし彼は一転いってんして冗談っぽく笑った。
「仔犬君がおいしそうに食べてくれて嬉しいよ。俺にも一口ちょうだい?」
 うながされるまま、勇樹は水無月先輩にスプーンを差し出した。彼はぱくりとスプーンを口に含み、丁寧に舌をわせた。一つ一つの動作が洗練されていて、どこか挑発的だ。
「うん。おいしくできたね。卵はれ立てのものを牧場から直接取り寄せたもので、そこでは飼料にもこだわってるんだ。蜂蜜は希少な日本ミツバチの蜜を使ったんだけど……」
「もしかしてこれ先輩が作ったんですか!?」
 びっくりする勇樹に、水無月先輩は思わせぶりに微笑んだ。
「そうだよ。仔犬君のために腕によりをかけました――なんて。俺、普段はウェイターだからあんまり慣れてないんだけど、仔犬君に喜んでもらいたくて」
「これお店に出したら絶対人気出ますよ! しかも水無月先輩の手作りだったら、すぐに売り切れちゃいそうです」
「仔犬君だけの特別メニューだから、他の人には内緒ね」
 ウインクする水無月先輩に、勇樹はほうっとため息をらした。
「やっぱり先輩はかっこいいです……俺の理想です」
「……そう? ありがとう。仔犬君にそう言ってもらえると照れるな……」
 ほんのりほおを赤くした水無月先輩は、仕切り直すように咳払せきばらいした。
「話がれちゃったけど、仔犬君は放送委員長やってみる気はある?」
「あ、はい。俺、放送委員大好きですし、水無月先輩に推してもらえると、俄然がぜんやる気が出ます!」
「よかった。彼方君は現委員長の応援演説の原稿を見たら、面白がって立候補しそうだからね……というかすでにかなり前向きな返事を貰ったみたいで、委員長喜んでたから……」
「どんな原稿だったんですか……?」
 恐る恐るたずねると、水無月先輩は頬をいた。
「うん、大体いつも通りだけど、俺がそこまで口を出すわけにもいかないし……」
 水無月先輩の制止が入らなければ、どれだけ委員長は暴走するだろうか。常に放送委員会革命を掲げ、微妙な路線ろせんを打ち出してきた委員長を、彼方がきつける未来が容易に想像できる。
 普段はやわらげられていた委員長ぶしに彼方が油を注ぎ、生徒たちを混乱のうずに叩き落とす恐ろしい未来が……。
「仔犬君の気持ちはわかるよ。俺も同じ心配をしたからね……でも俺が推薦して仔犬君が対抗馬になれば、恐らく彼方君も真剣にやると思う」
「彼方は負けず嫌いですからね」
 委員会のことをそこまで考えて話を持ちかけてきた水無月先輩を、勇樹は尊敬した。
「もちろん俺は勝つつもりだよ。彼方君を牽制けんせいするために仔犬君を推すわけじゃないから」
 水無月先輩の怜悧れいりな眼差しに、勇樹はれした。
「先輩が味方についてくれたら百人力ですよ! 俺もがんばらないと!」
「彼方君が本気になったら手強てごわいから、こっちも念入りに作戦をらないとね」
「はい!」
 勇樹は燃えてきた。彼方に勝って、放送委員会を守るのだ。現委員長には悪いが、放送委員会を悪の宇宙人に対抗する人類の反撃のアバンギャルド――云云うんぬんにするわけにはいかない。
 委員長の主張は突飛とっぴで、勇樹には今一つ理解し難い。
「水無月先輩の相談って放送委員長の件だったんですね……」
 勇樹とはそれ以外の接点がないので、当然かもしれないが。
「実は本題はもう一つの方なんだ。この話に無関係でもないけど……」
 水無月先輩にしては、めずらしく歯切れが悪い。
「言いにくいことなんですか?」
「仔犬君は驚くかもしれないけど、恋愛の悩みでね……」
 勇樹は目を丸くした。もてもてな水無月先輩が、女子には男として見られていない勇樹に恋愛相談……!?
「俺でいいんですか!? 仔犬扱いされて女子には全く相手にされてない俺に……!?」
「仔犬君じゃなきゃだめなんだよ」
 覚悟を決めたような顔の水無月先輩に、勇樹は姿勢しせいを正した。
「わかりました。俺にできることなら何でも言ってください」
 水無月先輩がそこまで言う理由があるのだろう。彼が誰かに片想いしているという話は有名だ。勇樹の意見が参考になるかはわからないが、精一杯知恵をしぼろう。
「ありがとう。仔犬君も知ってるかもしれないけど、俺は一年以上片想いしてる相手がいてね、なかなかアプローチできない理由があるんだ」
「理由……?」
 相手に彼氏がいるとか、そのくらいしか思い浮かばない。その彼氏と水無月先輩が親しいから、友達を裏切れないということだろうか。
「この告白にはとても勇気がいるんだ。仔犬君は俺の好きな子って聞いて、どんな人物を思いえがく?」
「え? うーん……明るくてかわいくて、性格の良い女の子ですかね」
 自然と水無月先輩とお似合いな可憐かれんな女子を想像する。
「やっぱりそういうイメージだよね……」
 少し悲しげな水無月先輩に勇樹はあわてた。
「もしかして美人系とか才女さいじょでしたか!?」
「ううん。明るいかわいい系は合ってるよ。でもね、女の子じゃないんだ」
 にぶい勇樹にも、水無月先輩が言わんとすることがわかった。
「俺の好きな子は男なんだ。仔犬君はそれを聞いてどう思った?」
 きっと水無月先輩は、気の許せる後輩である勇樹の反応を見たかったのだろう。隠し切れない不安が、かたい表情からうかがえる。
「正直驚きましたが、納得もしました。告白しなかったのは、そういう理由があったんですね……水無月先輩が誰に恋をしても、俺にとってかっこよくて優しい大好きな先輩であることに変わりはありません」
 偏見へんけんは持っていないつもりだ。恋愛対象が男でも女でも同じ人間なので、大切なのは人柄ひとがらだろう。
「……仔犬君はそういうことを意識しないで見てくれるんだね。だから俺は仔犬君が好きなんだ」
 水無月先輩は甘やかな視線を送ってきた。
「何か照れますね……俺、先輩の味方ですから、力になれることがあったら遠慮なく言ってくださいね!」
「……ありがとう。仔犬君の気持ちは嬉しいけど、もし自分にも関係のあることだったらどうする? 仔犬君自身が男に好意を寄せられたら?」
「えっ、俺ですか? うーん、誰かに恋愛的に好かれる自分が想像できませんね……」
 悲しいことに、勇樹が恋愛に興味を持ち始めた時には、女子はこちらに見向きもしなくなっていた。幼稚園時代はバレンタインにチョコを貰ったこともあるし、小学生の頃は隣のクラスの大人しい女の子が勇樹を好きらしいといううわさが流れたこともあったのだが……。
 中学に入ってからは彼方とつるんでいたので、目つきも態度も悪い彼を女子は遠巻きに見ているだけだったし、勉強もスポーツもぱっとしない勇樹のことははなから眼中がんちゅうになかっただろう。
「仔犬君は魅力的だと思うよ。俺が仔犬君を恋愛的な意味で好きって言ったら、前向きに考えてくれる?」
 水無月先輩は焼けつくような眼差まなざしでこちらを見据みすえた。勇樹の意見が今後を左右するとまでは思わないが、切羽せっぱまっているようなので、慎重しんちょうに答えなくては。
「憧れの先輩に好意を持ってもらえたら、それだけで俺はテンションが上がっちゃうと思います。俺はもてなさすぎるので参考にならないかもしれませんけど……舞い上がっちゃって、冷静に考えられるようになるまでには時間がかかるでしょうね……」
 以前七瀬違いであやまって告白され、勝手に一人で盛り上がって迷惑をかけてしまったことは記憶に新しい。夏休みを散散さんざん彼方と遊び尽くし、すっかり元気になったが、それ以来恋愛や交際について勇樹なりに考察するようになった。
「あー、前彼女ができたって仔犬君話してくれたじゃない? 後でその顛末てんまつも聞いたけど、その時つき合おうって思ったのは、相手が好みの女の子だったから?」
 水無月先輩は、勇樹の体験談から少しでも男の精神構造にもとづく必勝告白法を模索もさくしたいのだろう。今までの勇樹なら何も考えていなかったので、役に立てなかっただろうが、最近は頭を使うようになったため、知的な雰囲気が出始めたのかもしれない。
 だから水無月先輩は勇樹に打ち明けてくれたのではないだろうか。勇樹は更に張り切った。
「俺はその時気になってた子に告白されて、一方的に盛り上がってましたけど、もっと考えるべきですよね。あの経験から学んで、今はお互いを理解し合い、発展的な関係をきずくことが大事だと思うようになりました。でも頭でがちがちに考えるんじゃなくて、自然に気持ちのおもむくままに進むことで――」
「ちょ、ちょっと待って。つまり仔犬君は仮に男に告白されても、冷静に考えて気持ちの赴くままに発展的な関係を築ければいいの?」
「愛を探求して心が通じ合ったら、そこに身長差や好み、性別の差はないと思います!」
 勇樹の力説に、水無月先輩は戸惑っているようだ。
「な、何か迷走してるね……あの女のせいか」
「え、瞑想めいそう? よくわかりましたね! 実は俺、落ち着くために日日ひび瞑想の時間を取り入れるように――」
「誤解させてごめんね! 俺、はっきり伝えるから……他でもない仔犬君に」
 水無月先輩は過熱かねつした眼差しで、勇樹を射抜いぬいた。
「俺がずっと恋いがれてきたのは仔犬君だ。名前で呼べないのだって、この胸の内の想いを悟られるのが怖かったから……仔犬君というあだ名がかわいくて好きなのもあるけどね」
 無理に笑って見せる水無月先輩の本気が、痛いほど肌に突き刺さる。
「……勇樹君、俺の恋人になってよ。絶対幸せにするし、俺のこと好きになってもらえるようがんばるから」
 全身が甘くとろけてしまいそうな声音でささやかれ、勇樹は目の前が真っ白になった。

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