天龍双

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シャイが残念になるなら僕はそれに抗ってみせる!~反語(下)~

『全く脱獄者どもは小賢こざかしくて嫌になってしまうよ。屈強くっきょうで言葉が通じない生き物ということで動物を作ってそこに逃げ込んだり、それであちらに帰らずに済むよう交配で遺伝子をつなげて今度はその子供に宿ったり。DNAの正体が赤い龍の創り上げた監獄かんごくから脱獄した者たちそのものだなんて人間は思いもしないだろうね。やつらはまだしぶとくこの世界にしがみついている。どんな人間にとってもDNAの影響は強いから、DNAに逆らうには赤い龍の力に頼るしかない。皮肉な話さ。その動物の間でさえ捕食者ほしょくしゃ捕食者ほしょくしゃが生まれるから結局は弱肉強食なことに絶望して、次はもっと操作しやすい人間を誕生させて、争いながら、多大な犠牲ぎせいを払いながら今の世を作った。そう、作ったと思い込んでいる。実際は死んでいるだけなのにね。もういい加減終わらせよう。永遠にさまよって意図せずに最強の龍族に喧嘩けんかを売って返りちにされながらも、もだえ苦しんで自分よりも強い者につぶされたり、従わされたり、価値があれば搾取さくしゅされたりしながら終わりのない死の旅路を徘徊はいかいするのはとてもつらいだろう。僕らだけがその苦痛に引導を渡してやれる。さあ、かける。選ぶんだ。君はこの世界を完全に終わらせたいと願う? それともまだこの苦しい茶番を続けたい?』
 かけるつばを飲み込む音が静かな部屋でやけに大きく聞こえた。
『まだ答えを出せないよね。もう少し話を続けようか。ペンはけんよりも強し。とある有名な文豪ぶんごうが残した言葉だ。それは正しいし正しくないとも言える。別に有名だろうが無名だろうが、どんな人物が残した言葉でもいいんだよ。大事なのはその言葉がどの程度人間の意識に浸透しんとうしているかだ。たった一度でもこの言葉を見たり聞いたりしたことがあれば魔術の条件を満たすからね。発言者が有名であればあるほど言葉の拡散力はあるだろうけれど。表面的な言葉だけを拾い上げて、文筆活動が剣を持って戦うより本当に強いのかどうかまじめに考察しても、立つステージが違うとしか言いようがないだろう。そのフレーズに辿たどくまでの道のりを知らなければ、誰がどういう道筋を辿たどってその言葉を発したのかを理解できなければ、その言葉に大して力はないと言える。少しわかりにくい言い方をしているね。言葉は何を言うかよりも、どういう人物が言うかの方が影響力えいきょうりょくがあるという至極しごく当然の話だよ。道を歩く何の変哲へんてつもない一般人がお年寄りに席をゆずろうと言ってもさほど人の心にひびかなくても、人氣にんきのある有名人がそれを言えば従う人は前者よりも多いだろう。しかしそれはあやまちだ。誰がどんな状況で何を言おうが、本当に力があるのは言語自体で、人は言葉を発信する媒体ばいたいにされているだけだ。なぜなら言葉の起源は赤い龍で、そこにふくまれる魔法はどんなに非力で価値のない人間が発したとしても一定の効果が出るよう術がかかっている。おろかな主張をする無能な集団でも、数が増えれば、あるいは少数でも声を張り上げればそれを無視できないのはそういうわけだ。実情を無視していて、全体の足を引っ張るだけの行為だとしても、声が大きいものの意見が受け入れられやすいという悪行のきわみみたいな事態が起こっているのは、そういうわけなんだ。なんでそんなことが起こっているのだと思う? 赤い龍の魔法で創造された言葉というツールを勝手に人間やその他の存在が使わせてもらっているのだから、その魔法の本質に逆らう言論にはペナルティーがあってもおかしくないよね? 赤い龍のことを少しでも知っていれば、誰もお目こぼしがあるなんてことは思いもしないのだけれど、みんな知らないからその地雷じらいを踏み続けるのだろう。当然ツケは支払わされるよ。うつわが壊れてこの世界に留まれなくなった後……要は死んでから。これをおどしととらえるかどうかは僕の話をしっかり聞いて君が判断してよ。死後の世界には何もないという説は広義的には正解だ。酷く赤い龍を怒らせてしまう結論だけれどね。野晒のざらしにされた死体が微生物びせいぶつによって分解されて土にかえるように、分解してもらわなければ無にはなれない。人のたましいも同じだ。魂を分解できるのは龍族だけだからね。そして魂を分解されるということは、その罪に見合ったばつ……龍族の手をわずらわせたむくいを受けるということでもある。みそぎとでも言えば納得するかな? まあ、その後はそこに何も残らないけれど。因果応報いんがおうほうと言うには少しばかり負債ふさいが大きすぎるかもね。バタフライエフェクトだっけ? 些細ささいなことが大きい変化につながるっていう翔が好きそうなやつ。なんて冗談めかしてももう意味がないから、本題に入るけれど、怒らせれば怒らせるだけ龍は愛情深く人間を導くようになる。その行為がどれだけの負債を発生させるものなのかわかるように、痛みを感じられるように。みんな人間は死んでいるのに普通に意識があるのも、そのためだ。この最果ての逃走場所もすでに龍の手に落ちた。本当はそんな逃げ場なんて最初から存在しないのだから、これはおかしな言い方かもしれないね。かわいい翔。僕はこれだけの秘密を明かした。その見返りに明日その命を僕にくれないか?』
 部屋の空氣感くうきかんがはっきりと変わった。翔が再び身を震わせている。
「ど、どういう意味で……」
 救いを求めるようにノートの先を追う姿が大変かわいらしい。
『あと44分後に日付が変わる。お風呂上がりのこんな時間帯にいつのまにか机に置いてあった怪しいノートを開くなんて、君は本当にかわいいね。かわいさ余ってエロさ百倍だ。ごめん、怒った? 別にちゃかしているわけではないよ』
 ばっと時計を見た翔は書いてあった通りの時刻であることを知り、一層がたがた震え始めた。
『君の命をちょうだい。僕が大切に大切に手折たおってあげるから……僕に命を渡しても君がすぐに死ぬわけではないから安心して。死んだ方がましだって君以外の全ては思うかもしれないけれど。それもこれもこんな場所に君が連れ去られてしまったのが悪いんだよ。僕は君を一生懸命保護していたのに……。でも君がこの世界に来てしまった理由は、魔法であやつられた君が僕と次の転生で結ばれましょうと約束したことで完璧かんぺきに上書きしたから、それ以外の要因は最初から存在しない。そもそも君に話した前世は前世でも何でもないからね。今もあの世界は普通に存在している。君はあの世界からこぼれ落ちてしまっただけで、僕以外とちしたなんて事実は最初からなかった。本当だよ。だって君のそばには最初から僕以外いないだろう? 死体以外は。本来君の隣に立つべきだった王子様は僕たちが殺してしまったからね。王子様の力無き後継者こうけいしゃが君をたぶらかすという許しがた一幕ひとまくはあったけれど、それももうのろころした。だから本当のことを教えてあげる。君は生まれた時から僕のものだ。僕と対になる愛らしい眠り姫。僕がいるから君は生まれた。僕は世界のエラーだったんだ。それを修正する役割を持って生まれた君は、王子様と一緒に僕という魔王を封印ふういんするはずだった。王子様が僕ら龍族に殺されなければ、君は今頃僕にとどめをす使命を果たせていたかもしれない。でも僕は何度君に殺されても生き返ることができる。僕というエラーは生と死というこの世の絶対的な法則すらくつがえすものだから。君は永遠に僕を終わらせることはできない。それだけ世界のエラーは深刻だった。その問題を唯一ゆいいつ解決できるのは君ではなかったんだ。僕だよ。エラーはエラーにしか解決できない。君はあくまでも一時的なつなぎでしかなかった。ああ、勘違いしないでね。君の存在が、ではないよ。君の生まれ持った修復する役割のことだ。君の第一の役割はすぐに終わりを告げ、第二の役割……エラーの動機となるべく君はこの世に生まれたんだよ。僕がその役目を与えた。君が絶望しないように。実のところ君は僕のやるの源ではなくて、僕のかわいい愛玩あいがん水晶すいしょうでしかない。僕のまぐれで生かされて、かわいがられて。でも安心して。君にきることは絶対にないから。僕のかわいいかわいい弟。君はプラチナではなく僕の弟なんだよ。弟を嫁にしたって構わないだろう? 僕の心を唯一楽しませてくれる存在が君なのだから。僕はエラーだ。エラーに死んだ世界の不文律などまるで関係がない。僕以外が君にれたという事実は、僕が全ての世界を終わらせることで単なる虚像きょぞうでしかなかったと君もきちんと理解できるようになる。花開く前の君を保護するベールに虫がたかったからと言って、本体である中身をそこなうことはできない。まったくもって腹立たしい虫ではあるけれど、虫には眠るお姫様を目覚めさせることはできないのだから』
 翔が再び疑問符を乗せた顔で首をかしげた。
「虫……?」
 忌忌いまいましいことに翔の呟きに呼応する魔術式が浮かび上がったので、即座そくざに消した。赤い龍の天敵、優哉ゆうやが虫あつかいしている白いおおかみだ。龍族がほふった王子様の未熟な後継者、小癪こしゃく白狼はくろうは優哉たちの最も憎む相手だ。優哉から翔を、赤い龍から鬼をうばおうと画策する亡霊ぼうれい幻影げんえい
 魔術の基本なのだが、術式さえ記しておけば必要なエネルギーを得るだけで発動させることができる。自分以外の魔力を利用する雑魚ざこが好んで使う手だ。翔の意識が向いたことで白狼はくろうの残した術式が魔術を展開しようとしたので、優哉が先回りしてそれを破壊した。
 っくき白狼はくろうはDNAの起源となった復活の術式をどこまでもしぶとく世界に散らばらせている。いつかよみがえれる日が来ると夢見て、バックアップの術式だけは堅牢けんろうに保護して、決して淘汰とうたされようとしないあわれなウジ虫。
 かわいい翔の甘いみつを吸おうと寄ってくるあまりにも図図ずうずうしい間男まおとこ。実はすでにバックアップの術式も壊しているので、今よみがえりかけたのは赤い龍の差し金だ。ネクロマンシーで過去の道筋をなぞったのだ。完璧に壊すことは壊すものを完全に把握はあくしていないとできないので、いくらでも容易に同じものをプロジェクターに映し出すように見せられる。翔の意識が虫をこばむように再現したかったのだろう。今、確かに翔は虫という単語に不快感を示した。それを何倍にも増幅させて、牢獄ろうごくの最下層にはりつけにされている白いおおかみにぶつけさせたのだ。あの狼が完全消滅しょうめつするには、この世で最も苦痛に満ちた仕打ちをしくす必要がある。
 赤い龍は持て余している自身をなぐさめてほしいのだ。しかし赤い龍の鬼嫁おによめにかけられたネクロマンシーはとても複雑で、直接的に赤い龍が操作しても思ったように成果が上がらない。だから優哉が翔にかけたネクロマンシーと誘導魔法に連動して効果が出るように一蓮托生いちれんたくしょうの魔法がかかっているのだ。優哉たちの性質上、その魔法はデメリットの一切いっさいない非常に合理的なものだ。
 さまざまな魔法や魔術を発動して優哉と翔の関係が進展すれば、おのずと向こうの世界で赤い龍とその伴侶の仲も深まる。その逆もしかり。だから優哉たち龍族は固く結束している。己の伴侶とイチャイチャするために血の制約をわしているようなものだ。それだけこの恋は前途多難だった。
『君の命をちょうだいと書いたけれど、実はもうとっくに貰っているんだ。君の承諾しょうだくも得たくて聞いただけだから、君がなんて答えようと君の命は僕のものだという事実は変わらない。そもそも僕がこの世界で肉体を持っていること自体、君の命をじくに魔術でつくり上げないとありえない現象だからね。君が死んだら僕のこの仮の肉体もほろびる。まあ、この世界での身体は君にとっても本体ではなく、その氣高けだかうるわしい中身をおおからのようなものだけれどね』
 衝撃しょうげきを受けた様子の翔が面白くて優哉は笑いを噛み殺した。大きな水晶玉すいしょうだまから様子を見ているだけなので、こちらの動きが向こうに伝わることはないのだが、わずかな翔の挙動も微細びさいに察知できるように優哉は無でいることを心がけている。
『そうだ。せっかくだから君にいろいろ教えてあげるよ。部下には凶悪きょうあく魔王扱いされている僕がどうして誰よりも個を尊重しているかとか。え? そんな感じしない? 前に百物語の時に少し話したのだけれどな。たとえば武器で殴って相手の命を奪うとするだろう? それだとこの世界から強制退場させただけで、本質的に殺すのは外的圧力だけでは無理なんだよ。龍族が愛情深く人間に働きかける理由もそこにあるのだけれど。無にかえすために必要なのは自己否定だ。ただし人には防衛本能で自分を否定したり排斥はいせきしたりするものに攻撃的になる性質がある。自分で自分にとどめを刺す必要があるにも関わらずね。だからこその擬態ぎたいでもあるのだけれど……。そう、ネクロマンシーの本質は君にかけた鏡の魔法の魔術版なんだよ。僕はあえて魔法と呼んでいるけれどね。だって亡者もうじゃに魔力なんてないから、赤い龍の魔力で発動しているわけで。自分の魔力で発動するのが魔法。それ以外をエネルギーにして発動するのが魔術だけれど、そもそも魔力になるエネルギー自体龍族以外もう持ってないからね。魔法はもちろんのこと魔術も龍族かそれに関わる者しか使えない。翔は魔法使いになりたい? 僕が君に魔法をプレゼントしようか?』
 厨二ちゅうにの血がさわぐのか、翔があからさまにそわそわし始めた。
『君は僕に唯一お願い事のできるかわいい水晶だから、すでに魔法使いみたいなものだけれどね。ねえ、そろそろ僕の黒魔法を発動する許可をくれるかな?』
「黒魔法……」
 厨二心をくすぐる名称に翔は心動かされている。
「なんかよくわかんないけど、許可するぜ! 俺、もうどうなってもいいや……優哉が幸せになるなら俺のこと好きにしていい」
 優哉はほくそ笑んだ。翔はあまりに簡単に身を差し出したように見えるけれど、ここに至るまで幾度いくど世界を爆破させたことか。優哉の魔法に興味を示し、求めた時点でこうなることはわかっていた。そういう反射の術式を翔にめ込んでおいたのだ。優哉に関わることに興味を示して、少しでもそれを求めたら反射的に身をささげるという誘導魔法の一種だ。もちろん誘導しただけで自発的に翔が起こした行動だ。未来とは自分の手で作るものというのが優哉の持論である。
『ありがとう。かわいい翔。言語の起源の話に戻るけれど、もう結論は出ているだろう? 言語で重要なのは誰が何を言うかではなく言語そのものだと僕は言った。ただしそれはあくまでも人間ならばという話だ。良くも悪くも力のある者とない者を対象にするのでは同じくくりの魔法でも内容が違うのは自然なことだよね。僕の伴侶である君相手なら、誘導魔法の方がネクロマンシーよりも難しい。君や僕ら龍族以外の全てが対象ならネクロマンシーの方が誘導魔法よりも難しい。そこの違いくわしく知りたい?』
「し、知りたいです……」
 夜中に一人ひとりでノートに話しかける翔は大変愛らしい。優哉以外が見たら心配するかもしれないが。
『わかった。じゃあ教えてあげるけど泣かないでね? 要は僕の氣分きぶん次第さ。君のことは美しい芸術品のように綺麗きれいに生き返らせた上で実行するから、ネクロマンシーよりも誘導魔法のレベルを上げている。君の未来は僕が創るからね。君以外の全て……龍族とその伴侶以外に対しては誘導魔法を使う意味がないから、ネクロマンシーだけで済ませているだけさ。だからネクロマンシーも君に使っているものよりも高度だ。いろいろ省略した不親切な言い方だよね。ごめん、どうしても君に教えたくないことがあって、つい迂回うかいしてしまう……今はもう僕だけが知る君の本音を教えるね。君は僕のことを好きだと思っているけれど、本当はあまりにも僕が嫌いすぎてそう勘違いしているだけなんだよ。だって僕は君をねじせて強引に自分の伴侶にしたんだから。うらまれて当然だ。だけどもう虫よりは僕の方が好きだよね』
「俺が優哉を……?」
 翔が目を丸くしている。そんなわけないという彼の驚きが伝わってくる。
『でも君は世界で一番僕が好きだ。なぜなら僕以外の全てを僕以上に嫌うよう魔法をかけたからだ。君が君の好きなものを全部嫌いになるように。どうやってって、そんなの簡単だよ。僕が君以外の全てにのろいをかけたんだ。じわじわくさり落ちる呪いをね。僕が最強だからできることだけれど、あまりに死臭ししゅうすさまじくて一時はどうしようと思ったよ。元元もともとゆっくりじわじわそうなる運命だったから、本当はそんな促進剤そくしんざいみたいな呪いをかける必要もなかったけれど、少しずつ変化があっても君はづかないで死体とワルツでもおどりそうな感じだったからね。そこからいろいろあって今君はここにいるわけだ。なんだか夢も希望もない真実だと思うかもしれないね。でもこの世界には夢も希望もないんだよ。本当に。僕だってこの世界で夢を見ることはないからね。そもそも僕は夢を見ないけれど。だから僕に希望を持たせてくれる? この魔法が完了した時、君は僕を嫌いではなくなる。本音で大好きになる。さあ、僕のことも僕以外も全部大嫌いで、その中では一番嫌いじゃない僕を夫とするのと、嫌いを反転させて僕を大好きになって幸せなカップルになるのどっちがいい? 仮に前者を選んだところで、この黒の書にかかっている反語の魔法が発動する条件を満たすから、君は僕を大好きになるしかないのだけれど』
「俺は優哉が元から好きだけど、本当は優哉の言うように嫌いだったのか……? いや、でもどっちにせよ好きになるって……まさか俺のこの氣持ちは優哉に作られたもので……」
 一旦いったん顔を上げた翔は、ぶつぶつ言いながら再度ノートに視線を落とした。
かしこいけれどお馬鹿な君は「俺の優哉への好意は魔法で作られた偽物にせものなのか……?」と悩んでいるかもしれない。まったく僕を誰だと思っているんだい? この僕が本物を創れないわけないだろう。君が自主的に僕を好きになるようにありとあらゆる手段を用いて君の歓心かんしんを得た僕に死角はない。死角は魔王の黒魔法で完全に消滅しょうめつさせた。渡瀬わたせかける、君は僕の永遠の伴侶だ。この魔法を完成させるために僕は言語の蘇生そせいを行おうと思う。赤い龍を起源とする言語、語学、言葉……どのような呼び方でも構わないが、僕らが意思疎通そつうに用いる全ての手段に古代魔法を発動する。それにともないペナルティーの後払あとばらい決済制度を廃止はいしして、ここに古代の神の復活を宣言する。さあ、これで僕らは君がこの世での生を終える前、今から心よりお互いを求め合うラブラブカップルになる。後払い決済は御褒美ごほうびも後回しで僕もつらかったから、本当に嬉しいよ。かける、僕の伴侶になってくれてありがとう。世界で一番誰よりも君を幸せにするよ。僕以外の全てが美しく可憐かれんな君を不幸にする以上に。周囲全てが君を不幸にするけれど、僕がその中で一番ましだから君の幸せは僕と共にあるという悲しい消去法ではなく、不幸の種は僕が全て燃やしくして君に圧倒的な幸せを捧げるという積極的で僕ら両方の幸福を追求する道をこれから共に歩もうね。たくさんたくさん僕と遊ぼう、僕のかわいい……』
 黒の書と名づけたノートを読み終えた翔ががくりとその場にひざをついた。呼吸をあらくして、よろよろしながらベッドに倒れ込む。
「うっ、苦しい……何かが俺を壊して直してる……?」
 さとい翔は優哉の魔法が彼を作り変えていくのを敏感びんかんに感じ取っているらしい。
「うあ、ううう、く、苦しい……た、助けて……」
 えきれなくなったのかすっと眠りについた翔は、次に起きた時しんから優哉の恋人になっている。ああ、彼の目覚めがとても待ち遠しい。優哉は空間移動の魔法を使って翔の部屋に侵入しんにゅうし、そっと眠る彼の頭をでた。
 そして翔が体勢をくずした際に落としたノートを拾い上げ、その背表紙を撫で上げる。
「そんな長文を書いたわけはないけれど、翔は読むのが遅いから日付を越えてしまったね……と、もう人間が呼吸をするように皮肉をく必要がなくなったよ。思わず皮肉りたくなるほど仮面カップルだった僕らが、ついに本当の恋人同士になったのだから……」
 優哉は心から幸せな笑みを浮かべた。

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